【コラム】ポケモンBWとドイツの標語「統一と正義と自由」を比較してみる
こんにちは、Shotaです。今回の記事ではコラムとして、任天堂のRPG『ポケットモンスター ブラック・ホワイト』とドイツの標語「統一と正義と自由」の関係性を考察します。
導入:ポケモンBWとドイツ標語の意外な共通点とは?
今回の記事も多少いい加減な部分が含まれているので、可能であれば参考サイトを確認しておくことを推奨します。
『ポケモンBW』とサルトル哲学の関係性を考察した記事はこちらを参照してください。

任天堂のRPG『ポケットモンスター ブラック・ホワイト(BW)』(以下『ポケモンBW』)は、ポケモンシリーズの中でも「真実と理想」「自由と支配」「共存」といった重いテーマを描いている作品です。登場人物たちの考え方は単純な善悪ではなく、プレイヤーに「本当に正しいのはどちらか?」と問いかけてきます。
一方、ドイツには「統一と正義と自由(Einigkeit und Recht und Freiheit)」という有名な標語があります。これは国歌にも使われている言葉で、国をまとめる統一、法に基づく正義、そして個人の自由という価値を表しています。
ぱっと見るとゲームと国家理念はまったく別の話に思えますが、実はどちらも「分かれたものをどう一つにまとめ、共存させるか」という共通の問いを持っています。この記事では、BWとドイツ標語を並べて比べ、物語の中の価値観と現実の社会理念がどのように似ていて、どこが違うのかをやさしく解説していきます。
ポケモンBWのキャラクターと価値観
『ポケモンBW』では、登場人物たちがそれぞれ異なる考え方を持ち、物語に深みを与えています。ここでは特に重要な3人を取り上げて、それぞれがどんな「価値観」を表しているのかを整理します。
N ― 自由を求める理想主義者
Nは「人とポケモンは別々に生きるべきだ」と考えています。一見するとポケモンを大切に思っているように見えますが、その考えは「人とポケモンのつながり」を切り離してしまうものでもあります。つまり、自由を追い求めすぎて、逆に「統一」とぶつかってしまう立場です。
ゲーチス ― 自由を利用する支配者
プラズマ団のリーダーであるゲーチスは、「ポケモンを解放すべきだ」と演説します。しかしその本当の狙いは、自分だけがポケモンを独占して支配すること。「自由」という言葉を利用して人をだます姿は、自由や正義の正反対だといえます。
主人公 ― 統一と正義をもたらす存在
プレイヤーが操作する主人公は、Nやゲーチスと向き合い、対話やバトルを通して人とポケモンの関係を回復させます。主人公は、対立する考えを調整して「統一」へ導く役割を持ち、また「正義」を守る立場でもあるのです。
ドイツの標語「統一・正義・自由」の意味
ドイツには「統一と正義と自由(Einigkeit und Recht und Freiheit)」という有名な言葉があります。これはドイツ国歌の冒頭にも出てくるフレーズで、国の基本的な価値観を表す合言葉です。
Einigkeit und Recht und Freiheit
統一と正義と自由を
Für das deutsche Vaterland!
父なる祖国ドイツのために
Danach lasst uns alle streben
それらを求め私達はみんなで
Brüderlich mit Herz und Hand!
兄弟のように心と手を携えて努力しよう
Einigkeit und Recht und Freiheit
統一と正義と自由は
Sind des Glückes Unterpfand.
幸福の証だ
Blüh' im Glanze dieses Glückes,
その幸福の輝きの中で栄えよ
Blühe, deutsches Vaterland!
栄えよ、父なる祖国ドイツ
引用元:ドイツ人の歌(Wikipedia)
それぞれの言葉が示す意味を、できるだけわかりやすく見ていきましょう。
統一(Einigkeit) ― 国をひとつにまとめること
ドイツは歴史の中で、たくさんの小さな国や地域に分かれていた時代や、東西に分断された時代を経験しました。「統一」とは、その分裂を乗り越えて国をひとつにまとめる理想を指します。1990年の東西ドイツ再統一は、この理念が実現した象徴的な出来事です。
余談ですが、簡潔に補足するとこのような感じになります。
たくさんの小国や地域に分かれていた時代→ヴェストファーレン条約後のドイツで、300に及ぶ国が分裂。
東西に分裂された時代→1949年~1990年の東西ドイツ分裂期。
正義(Recht) ― 法律による公正なルール
「正義」とは、権力を持つ人であっても法律に従わなければならないという考え方です。これを「法の支配(Rechtsstaat)」と呼び、国の力を勝手に使わせない仕組みとして機能します。
自由(Freiheit) ― 一人ひとりの権利を守ること
「自由」とは、誰もが自分らしく生きる権利を持つということです。ただし、無制限の自由ではありません。他の人の権利や社会のルールとバランスを取ることで、はじめて安定した自由が保障されます。
ポケモンBWとドイツ標語を比較する3つの視点
ここからは、『ポケモンBW』とドイツの標語「統一・正義・自由」が、どんなところで似ていて、どんな違いがあるのかを3つの視点から整理してみましょう。
「統一」:人とポケモンの共存 vs. 国をひとつにまとめる
『ポケモンBW』では、人とポケモンが対立してしまう場面がありますが、最後は「一緒に生きる道=共存」を選びます。ドイツでは、長い分裂の歴史を乗り越えて、東西ドイツの再統一を果たし、国をひとつにしました。
👉 共通点:分かれてしまったものを「もう一度ひとつにする」という考え。
👉 違い:BWは心のつながりを描き、ドイツは国や制度を通じて実現している。
「正義」:対話による公正 vs. 法律による公正
『ポケモンBW』では、登場人物の言葉や行動を確かめながら、何が正しいのかを判断します。ドイツでは、「法律によって権力をしばる」仕組みが正義の基準となっています。
👉 共通点:権力の乱用を止め、公正さを守ろうとする姿勢。
👉 違い:BWは物語の中での「対話や合意」、ドイツは「法律」というはっきりしたルール。
「自由」:悪用される危険 vs. 制度で守られる安心
『ポケモンBW』では、ゲーチスが「ポケモンを解放する」という言葉を使いながら、実際は自分の支配を広げようとします。つまり「自由」が悪用される危険が描かれています。
(1) The friendship between Pokémon and people can be very touching. But, in order to liberate Pokémon from foolish people, we will revive the legend of Unova--and win the hearts and minds of everyone. Farewell...
(ポケモンと人間の絆は時に胸を打つ。だが愚かな人間からポケモンを解放すべく、我々はイッシュ地方の伝説を甦らせ――全ての者の心をつかむのだ。さらば…)
※ヒウンシティでのNの台詞。
(2) This doesn't change my goal. My plans have not been disturbed! In order to rule this world utterly, in order to manipulate the hearts of people who know nothing, I will have N be the king of Team Plasma. But, for that to work, you-- since you know the truth-- You must be eliminated!
(この事実は私の目標を変えるものではない。計画は乱されていない!この世界を完全に支配するため、何も知らない人々の心を操るため、Nをプラズマ団の王に据える。だが、そのためには――真実を知るお前は――排除されねばならない!)
※Nの城で主人公がNに勝利した時のゲーチスの台詞。この時、ゲーチスの目的が明らかになる
- 引用:Ghetsis/Quotes - Bulbapedia, the community-driven Pokémon encyclopedia
ドイツでは、自由は憲法によって守られており、他人の権利や社会の秩序とのバランスを取ることで安定しています。
👉 共通点:自由は放っておくと乱用されるので、必ず外からの制約が必要。
👉 違い:BWは「物語の中での教訓」、ドイツは「法律や制度で守られる仕組み」。
まとめると、
- 統一=「人とポケモンの共存」 vs. 「国をひとつに」
- 正義=「対話と理解」 vs. 「法律のルール」
- 自由=「悪用の危険」 vs. 「制度で保障」
どちらも「分断をどう乗り越えるか」というテーマを持っていますが、BWは心の物語として、ドイツは現実の国の仕組みとして答えを出しているのが大きな違いです。
共通点と違いを整理:早見表で一目理解
ここまで見てきた内容を、表にまとめてみましょう。『ポケモンBW』と「ドイツの標語『統一・正義・自由』」が、どこで似ていて、どこが違うのかを一目で確認できます。
観点 | ポケモンBWの世界 | ドイツの標語「統一・正義・自由」 | 共通点 |
---|---|---|---|
統一 | 人とポケモンが一緒に生きる「共存」 | 国や市民を制度でまとめる「再統一」 | 分かれたものをひとつにする |
正義 | 主人公とNの対話や理解が基準 | 法律が基準、権力も法に縛られる | 公正さを守ろうとする姿勢 |
自由 | ゲーチスが「解放」を悪用する危険あり | 他人の権利と憲法秩序の中で守られる | 自由には制約が必要 |
👉 まとめポイント
- 共通しているのは「分断をどう乗り越え、共存や自由を守るか」という問い。違っているのは、その答えを出す方法。
- 『ポケモンBW』では登場人物の対話や物語の展開で調整する一方で、ドイツでは憲法や制度という国のルールで調整。
結論:物語と現実が映す「分断克服」の思想

ここまで見てきたように、『ポケモンBW』とドイツの標語「統一・正義・自由」は、一見まったく別の世界の話に思えます。しかし、どちらも大きな共通点があります。それは 「分かれてしまったものを、どうすればもう一度つなげられるのか?」 という問いかけです。
『ポケモンBW』では、Nやゲーチス、主人公の考え方を通じて、人とポケモンの関係を見直し、最後に「共存」という答えにたどり着きます。一方で、ドイツの標語では、国が分断された歴史を乗り越え、憲法や制度を使って「統一」「正義」「自由」を守る仕組みをつくりました。
👉 共通点:どちらも「分断をどう克服し、安定した共存をつくるか」という課題に取り組んでいる。
👉 違い:BWは物語を通じた心の調整、ドイツは制度や法律による現実的な調整で答えている。
つまり、『ポケモンBW』とドイツの標語「統一と自由と正義」は、それぞれ違う方法を使いながらも、同じテーマに挑んでいるのです。
参考文献・サイト一覧
[1]ドイツの歌 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%AE%E6%AD%8C
[2]Pokémon Black and White - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Pok%C3%A9mon_Black_and_White
[3]Ghetsis - Bulbapedia, the community-driven Pokémon encyclopedia
https://bulbapedia.bulbagarden.net/wiki/Ghetsis
[4]関眞興、『一冊でわかるドイツ史 世界と日本がわかる 国ぐにの歴史』、河出書房新社、2019
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309811031/
[5]Ghetsis/Quotes - Bulbapedia, the community-driven Pokémon encyclopedia
https://bulbapedia.bulbagarden.net/wiki/Ghetsis/Quotes